ルルーシュが指示した場所へ向かうと、そこには白いワゴン車が止まっていた。街中でよく見かける、ありふれたごく一般的な車だ。その車がそうだとルルーシュが言うので近づいてみると、こちらに気がついたのだろう、運転席から若い男が降りてきた。
スザクはすぐに警戒し距離を取ったが、よく見ると青い髪を跳ねさせた、自分と同年代だろう明るい笑顔の少年だった。体格や動きからも、特殊な訓練を受けているとは思えない、ごく普通の少年だ。
「リヴァル、お前も来ていたのか」
スザクに背負われたままのルルーシュが、若干驚きを滲ませてそう言った。どうやら二人は顔見知りらしい。
「ひっどいなぁ。なになに、俺は来ないと思ったわけ?それって酷くないですかルルーシュさん」
何処かおどけた口調で、リヴァルは言った。
その顔はとても晴れやかな笑顔で、暗い影など一切感じられず、背中のルルーシュも警戒する事無く微笑んでいる。二人はとても親しいのだろう。
スザクはほっと息を吐くと警戒を解いた。
すると、今度は後部座席のドアが開けられ、中から金髪の女性が降りてきた。
その女性は、泣きそうな顔でスザクに背負われているルルーシュを見ると、深々と頭を下げた。
「ルルーシュ様、申し訳ありませんでした」
その様子に、スザクだけでは無くリヴァルもまた驚きの表情で女性を見た。
「謝ることなど無い。私が戻されたのは、私自身のミスだ」
ルルーシュは、今までの砕けた声から一変し、皇族らしい口調でそう言った。
「ですが」
「もうやめましょう会長。リヴァルが驚いている」
ルルーシュは再び口調を変え、苦笑しながら視線をリヴァルに向けた。見ると、リヴァルは何?何なの?という表情でミレイとルルーシュを交互に見ていた。
「それに、いい加減ここから降りないとな。疲れただろうスザク」
政庁からここまで歩いたのだ。
久々に熟睡したことで、今まで感じていなかった虚脱感に包まれていたルルーシュは、ついスザクに甘え、背負われたまま此処まで来てしまったが、腕も足もそろそろ限界だろう?と、聞いたのだが。
「え?僕?全然?というかルルーシュ、君、軽過ぎだよ。もっと食べなきゃ駄目だ」
と、平然とした声で返された。
確かに、男一人背負っているとは思えないスザクの様子に、ミレイは眉尻を下げた。
まさか目の前にいる一見細身の男が、人外ともいえる体力の持ち主で、ルルーシュ程度の重さなら全然苦にならないなんて想像していない。
元々細身ではあるが、この1週間足らずでやつれてしまっているように見えるルルーシュが、異様に軽いのだろうと思い込み、ますます不安を募らせた。
「えーと?会長?」
完全に蚊帳の外なリヴァルは、目をぱちくりさせながら、ミレイにどういう事?と尋ねた。人目につく場所でスべき話ではないし、ルルーシュの姿を見られたら、こっそりと抜けだした意味がなくなってしまう。ミレイは一度頭を振り、思考を切り変えた。
「・・・解ったわ。謝るのはひとまず終了。えーと、スザク君?でいいのかしら?後ろに乗ってくれる?リヴァル、話しはあとよ。運転お願いね」
ルルーシュの体が冷えてきている事を気にしていたスザクはさっさと車に乗り込んでしまい、ミレイも助手席へと移動する。リヴァルはおいてけっぼりをくらったような表情をしてその場に立ち尽くしていた。
「聞こえなかった?リヴァル、ほら出して」
助手席に座ったミレイに声をかけられ、リヴァルは「あーもー、わかりましたよ」と文句を言いながら運転席に座った。車は暫く街中を走った後、大きな門の前で一度止まった。すると、守衛だろう人が出て来て、門を開く。車が通ると、門は再び閉ざされた。門の先には大きな建物が見えると、助手席から、ミレイがにっこり笑顔で身を乗り出してきた。
「スザク君。ようこそ、わがアッシュフォード学園へ!」
先ほどとは打って変わった明るい声でミレイは言った。
「学園?ここ、学校なんですか?」
「あら?その辺聞いてないの?」
「はい。誰に聞かれるか解りませんから、目的地は聞いてないんです」
「あー、そっか。そうよねぇ」
ミレイは困ったような顔で頷いた。
何処に居ても盗聴されている危険性は高いのだ。だから、携帯も全て置いてここまで来た。その位警戒しなければ、目的の場所へなど向かう事は出来ないから。
車は正面に見えたその大きな建物へは行かず、横道に入った。
その先には別の建物があり、入口の前で車は止まった。
「とーちゃくー。皆さま、ご乗車ありがとうございました」
リヴァルが明るい声でそう言うので、思わずミレイは噴き出した。スザクも自然と笑みを浮かべる。リヴァルは何も解ってはいないが、この重々しい空気を少しでも消そうとしてくれているのだというのがよくわかった。
「ルルーシュ着いたよ、ルルーシュ」
声をかけて、その肩をゆする。
車に乗るとすぐに寝息を立て始めたルルーシュを起こそうとしたのだが、やはりなかなか目を覚まさない。仕方ないなと、スザクは再びルルーシュを背負い車を降りた。
「・・・ルルちゃん、大丈夫なの?」
「うわあ、こいつが起こしても起きないの初めて見た」
背負われた状態で、一度も目を覚ます事無く降りてきたルルーシュに、二人は驚きと不安が入り混じった、心配そうな視線を向けた。
「ろくに休めなくて疲れてるんです」
安心しきった表情で眠るルルーシュに、三人の視線が集まる。
いつもは凛としているルルーシュだが、寝顔はどこか幼く見えた。
「スザク君が一緒に来てくれてよかったわ・・・こんな状態のルルちゃん一人だったら、何処かで倒れてたかもしれないわね」
寝ているルルーシュの頬をつつきながらミレイは苦笑した。
ルルーシュは僅かに身じろぎはしたが、やはり起きる気配はない。
「ま、いいわ。中に入りましょう」
ついてきて、というミレイに従い建物の中へ足を踏み入れた。